（2）災害時の救助・救援に対する配慮

都市部、特に臨海都市部で発生した災害に対して、救助・救援活動をスムーズに行うためには、海域からのアクセスが有効かつ必要であることは既に述べた。このためには、都市内に運河・水路・河川を配置して、小型舟艇のアクセスを可能にする、護岸をできるだけ低くして水・陸の結節の冗長性を保証する、水辺にはグリーンベルト、公園等を配置して避難場所の確保を図ると共に、アクセス道路を適切に配置する。都市内河川に架かる橋の嵩上げを行い、舟艇の通行を可能にする。

一方、都市内部だけではなく、隣接地域の海岸部に臨時港湾としての機能を持たせた市民開放型港湾、海岸線を配置し結節の冗長性の確保に努めることが望まれる。この施設は、平常時には市民の憩いの場としての親水機能を持つ。

（3）交通・物流に対する配慮

大都市周辺の交通事情は極めて悪い。この問題を解決するためには、陸上交通。物流の一部を海上に移す必要があると同時に、物流の拠点機能が大都市に集中することを避ける必要がある。大阪湾のように湾の周囲を陸域が取り囲んでいる場合には、交通・物流インフラとして鉄軌道、高規格道路の適切な配置によって機能的分散、時間的集約を図ることが可能である。このために、従来の行政区画を越えたポートオーソリティのシステムを導入することが必要である。さらに、国家レベル、地域レベル、コミュニティレベルの交通機能が神戸に集中したために、国家経済をも揺るがす大被害を被ったというこの度の大震災の教訓から生まれた「海の国土軸」のコンセプトを提案する時期であると考える。

（4）親水性に対する配慮

臨海都市周辺の水際線のほとんど全てが垂直護岸で覆われてしまっている現状では、親水性は疎か、海岸にアクセスすることさえ許されていない。大阪湾では、海岸線の90%以上が人工海岸であり、一般人が自由にアクセスできる海岸線は全体の10%程度しかない。

市民の港として開放する港湾区域をも含めて、港湾緑地、海浜公園、遊歩道等を配置し、親水性を高めることが必要である。（5）環境に対する配慮

大都市域の環境問題としては、排気ガス、ヒートアイランド化、振動・騒音等枚挙に暇がないほどであるが、これらの問題のかなりの部分は海からの視点で緩和される。高規格道路の前面海底への配置によって、排気ガス、振動・騒音は大きく緩和されることが期待できる。また、都市内部に配置する、水路、運河、その周辺の緑地帯、公園によってその効果が増すであろう。

臨海大都市の環境問題でさらに深刻な状態にあるのは沿岸海域の環境である。長期に亘って操り広げられてきた、沖出し埋立、人工島建設、垂直護岸等による浅場の喪失、陸域の工場排水、家庭排水等のたれ流しに因を発する水質、底質の有機汚染、富栄養化、有害金属イオンの堆積などが海域生物生態系を圧迫、もしくは死に追いやろうとしている。図には明確に表すことができないが、街づくり計画においては、河川、水路の利用による清浄な淡水の海域への供給が必要であると同時に、陸域における人間活動からの汚濁負荷が河川や水路を通して海域に流入しない方策を講じる必要がある。

5. 緒言

阪神・淡路大震災から得られた教訓をもとに、船舶による災害時の救援活動、海上支援、防災における港湾・船舶の位置づけ、新しい街づくりに関して、緊急時の人間を取り巻く環境への対応には海・船の多様な機能の活用が重要であること、さらに、沿岸地域の都市空間を人に優しく創り上げるためにも海からの視点が必要であることを述べ、実現可能な臨海都市のイメージの提案を行った。本論文においては詳しく述べることを控えたが、陸域の広義の環境問題の解決には「海の国土軸」のコンセプトが大きな意味を持つと考える。

最後に、本稿は関西造船協会、大災書時における海上輸送システムの実態とその在り方に関する調査研究会において実施された研究内容に基づいて作成されたことを付記し、関係各位にお礼申し上げる。

参考文献

1. 大災害時における海上輸送システムの実態とその在り方に関する調査研究（中間報告）、関西造船協会、1995，5.

2. 大災害時における海上輪送システムの実態とその在り方に関する調査研究一災害時の救援：海からの視点一、関西造船協会、1995，12.

3. 関西圏の新たな都市・都市圏構造の構築に向けて、日本都市計画学会関西支部「震災復興都市づくり特別委員会」報告会テキスト、1995，7.

4. 紙野桂人他：これからの安全都市づくり−阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて−、日本都市計画学会関西支部、「震災復興都市づくり特別委員会」、学芸出版社、1995，10.

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